尖閣動画流出によって勢いづく排外主義者たちを許すな

 今年の9月7日に発生した、海上保安庁の船と中国漁船が尖閣諸島*1付近で衝突した事故の映像が、ある海上保安官によって流出した問題が話題となっている。議題のひとつは、映像がどのようにして流出したかであるが、はっきりいえばそんなことは関係者の間で了解がつけばいいだけの話であって、わざわざ朝から晩まで公において騒ぐ必要がある話だとは思えない。
 映像流出は正当化されるべきかどうか、は議論の余地があるといえるだろう。当然ながら、機密である情報をリークすることは法的には問題がある。しかし、ある組織において不正が行われているとき、内部告発によってその事実を明るみに出し、不正を正そうとすることは、一般論としては、その例外として保護されなければいけないだろう。ただし、その告発が正当なものであるかどうかは、当然ながらその内容を吟味しなければならない。
 内部告発は、公において知られていなかった不正を明るみにだす。また多くの場合、内部告発それ自体が、不正の証拠を構成してもいる。では、今回の流出映像においてはどうか?映像の公開をあれだけ要求していた人々が、映像の内容自体について全くといいほど沈黙していることがその証明となっている。つまり、何も語るべきことがないのである。流出映像は、今回の事件について新しいことをなにも明るみにしていない。映像の公開によって明らかになるかもしれなかったことがあるとすれば、それは衝突が故意か事故か、ということだろうが、結局あの映像では、漁船が故意に衝突させたか、あるいはまったくの事故であったか、または海上保安庁の船が故意に衝突させるよう仕向けたか、決定的なことは何もわからないのだ。
 その他の論点において映像は何を提供できただろうか?衝突の場所は最初からはっきりしている。問題はそれが中国漁船による領海侵犯であるか、それとも日本が尖閣諸島とその周辺の海域を不当に占有していると考えるか、という論点であるが、当然ながらそれについては映像は何も提供できない。そして、そもそもそのことが一番の論点であって、どのように衝突したかは二次的な問題であったのだから、映像の公開が、日本と中国双方にとっても、事態を劇的に変えるような行為になることはありえなかった、ということは、最初からわかっていたはずである。この点において、これを内部告発として正当化すべき理由はまったくない。むしろ同時期に発覚した、警察がイスラム教徒などの外国人をテロリストと同一視していた、という事実こそが、その内容においてもよほどとりあげられるべき問題であるし、正当性のある内部告発であろう。
 では、映像の公開はまったく無駄であったのか?というとそうではない。反中国の論陣を組んでいた排外主義者を勢いづかせたのである。そして、このような結果になることも初めからわかっていたのであって、日中両政府は何故、あのような内容においてどうでもいい映像の公開をかたくなに拒んでいたのか、という理由についても結果的に明らかとなった。映像は、その原因についてはともかくとして、中国の漁船が海上保安庁の船に衝突している、という点については、確実に捉えている(もちろん、それは公開されずともわかっていた事実である)。そのことは、戦前において「御真影」を毀損した者は故意か事故かに関わらず処罰されたようなメンタリティにおいて、ある種の人々の衝動を掻き立てるのだ。現代日本における排外主義者の特徴は、周辺国にたいする被害者意識の強さであって、それは教科書的にいえば典型的な没落社会の排外主義なのだが、映像はその自らの被害者性を再確認させ(情況や原因はどうあれ、「中国の船が日本の船に衝突した」という事実でもって)、心置きなく排外主義へ向かわせるのである。
 この排外主義への欲望は、満足させられるべきだったのか?当然ながら否である。政府は、悪い欲望についてはそれを保証する義務は無い。たとえば差別主義者を満足させるために差別を存置させるなどということがあってはならない。なるほど現在の民主党政権は問題だらけの政権であるが、自らの排外主義的な欲望を満たしてくれないからといって、政府に不信を抱くことを正当化してはいけないし、その不信は正当化されるべきでもない*2
 排外主義的な世論や政治が勢いづくなかで、犠牲となるのは沖縄である。9月の事件以降、沖縄への不当な米軍基地押し付けが、さらに正当化されようとしている。それだけでなく、沖縄の群島への自衛隊配備の強化が主張されている。本土の排外主義者や国家主義者の欲望を満たすために、またも沖縄は捨石にならんとしているのだ。このような情況を、黙って見逃していいはずはない。


というわけで宣伝です。

■12月5日14時『沖縄の基地押しつけはおしまい!新宿ど真ん中デモ――「中国が攻めてくる」なんてありえないよ〜』
http://d.hatena.ne.jp/hansentoteikounofesta09/20101205
沖縄への米軍基地押し付けに反対する「新宿ど真ん中デモ」、第6段は12月5日(日)14時新宿アルタ前広場出発に決めました! ぜひご参加ください、そしてこれからの準備やデモ当日の協力、大歓迎です。ぜひご連絡ください。 政府は11月28日沖縄県知事選の後に基地押しつけを狙っている、「これ以上沖縄の民意を踏みにじるな!」と声を上げ続けましょう。そして「本土」で高まる「中国脅威論」と「だから沖縄には基地の抑止力が必要だ」という身勝手でひどい主張にも「NO!」を。ぜひ一緒に歩きましょう。

 現在の反中国ムード・戦争ムードのなかで、やはりそれはおかしいと思っていても、何となく声をあげづらくなっていた方もいると思います。でも、そもそも危機を煽る連中のいっていることこそ筋が通ってないわけだし、理屈ぬきにおかしいことはおかしいと言える場が絶対に必要であって、このデモはそういう場であると考えています。

*1:この呼称について必ずしも同意しているわけではないが、とりあえず便宜的にこのように呼んでおく。

*2:排外主義への欲望を政府によって満たされたければ入管をみればよい。外国人にたいする非人道的な取り扱いは、きっと排外主義者の諸君を満足させてくれるであろう。