国際商業と近代ヨーロッパ

林健太郎の「グーツヘルシャフト考」は、国際商業についての考察が甘いと思う。なるほど、確かにグーツヘルシャフトが成立する要因として他地域との経済関係が指摘されてはいる。しかし、そこで構想されているのは、個別的国内市場のネットワークに基づく世界経済であり、近代資本主義システムに基づく「世界=経済」*1はない。まあ、世界システム論が絶対的に正しいのだと言うつもりは無いけれど、少なくとも、「グーツヘルシャフト考」は旧来的な、生産関係を過度に重視する資本主義社会考察に依拠しすぎており、国際商業の拡大という事態を過小評価しているという批判は妥当だろうと思う。もちろん、これは氏の研究の価値を貶めるものではない。それ自体としてはとても優れた論文だと思うが、現在では補完が必要であるということ。

*1:「世界経済」と「世界=経済」の違いについては、ブローデルの「歴史入門」が詳しいと思います。簡単に言えば、前者は単なる世界各地の、個々の地域経済システムの寄せ集めであるのに対して、後者はそれ自体がひとつの経済システムであるということ。かつて、世界には複数の「世界=経済」が存在したが、現代では資本主義という単一の「世界=経済」によって覆われているというのが「世界システム理論」。日本のマルクス主義歴史学―揶揄的な意味ではなく―史でいえば、国民経済に対する「世界=経済」―とは彼らは言わないが。まあ似たようなもんだ(えー)―の優位を唱えたのが労農派で、その逆が講座派…だったかな?間違ってるかも。よく知らん。