ドイツ政局

どうやら大勢は大連立で行くらしいが、首相人事でもめているみたいだ。だが、重要なのは首相人事なんかよりも政策協定がどれだけ具体的なところまで詰められるかだろう。恐らくメルケルが首相になると思われるが、選挙戦を見る限りはっきり言って彼女には野田聖子臭―実務能力よりもイメージ優先―しかししないので、見切り発車で政権を発足させてもその後生じてくるであろう政策上の対立に対してリーダーシップを取れず即刻解散、という結果になってしまう可能性がある。
ところで、政策協定における主な争点は労働市場の改革をどうするかだが、かなりもめるのではないか。SPD政権は「ハルツ4」によって失業問題の克服を目指したが、労働需要の拡大には繋がらず、根本的な対策にはならなかった。対してグローバリズムに対応するため、経営者に対する規制緩和や労働者保護の縮小によって労働市場の流動化を目指すCDU/CSUだが、これは労働組合の力が強いドイツでは大きな反発が予想される。ドイツの労働組合が強いのは、直接的には1951年の労使共同決定法が所以だが、もっと根本的な背景には、ドイツの資本主義がいわゆる「社会的市場経済」を基盤として発展してきたことがある。この理念により、自由主義政党のCDU/CSU労働組合の保護を比較的重視していた。つまり、労働者の権利を充実させることは、単に社会福祉の観点から良いとされてきたのではなくて、それが経済にとってもプラスになると判断されてきた側面がある。シュレーダーが「雇用のための同盟」(崩壊したが)を提唱したのも、SPD社民主義的な政治理念だけではなくて、このような対等な労使協調という伝統があるからに他ならない。「社会市場経済」のルーツは、オイケンのオルド自由主義など多々あるわけだが*1、やはり第二帝政時代の「組織された資本主義」(ヴェーラー)にあるらしい。であれば、ドイツはその国家成立以来ずっと市場経済至上主義では無かったことになるのであって、もし次期政権がその抜本的改革に踏み出すとすれば、それは歴史的な大事件になる。
ただ、思うのだが、19世紀以来「組織された資本主義」*2ないし「社会的市場経済」がそのオルタナティヴを目指したところの「市場経済至上主義」における諸問題は、この21世紀になって解消したと言えるのだろうか。解消しておらず、ただただそれしか道はないからそこに行く、というのであれば、それは「詰んでいる」と言わないか。国境を越えたグローバリズムの波から労働者を保護することが不可能ならば、必要なのは国境を越えた社民主義なのではないだろうか。いや、世界同時革命とかじゃなくて。

*1:ていうか、このあたりは経済学に疎い私にはややこしくて良く理解できてないのですが

*2:これはナチスの経済政策との連続性を指摘する声もあるようにナイーヴに肯定することは出来ないが