野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』(ファミ通文庫)

遠子先輩怖い。なんでかっていうと、これ、裏テーマは「トカトントン」なんだよな。

何か物事に感激し、奮い立とうとすると、どこからとも無く、幽かに、トカトントンとあの金槌の音が聞えて来て、とたんに私はきょろりとなり、眼前の風景がまるでもう一変してしまって、映写がふっと中絶してあとにはただ純白のスクリンだけが残り、それをまじまじと眺めているような、何ともはかない、ばからしい気持になるのです。(太宰治トカトントン」)

人々からやる気を奪うトカトントンの音が、他方では死を抑制する安全弁となるという話。もちろん遠子先輩がトカトントントカトントン言う人なんだけど。語り手の心葉がまず遠子のトカトントンに救われた人だし、さらに千愛の仕掛けによって関係性が変容するかに見えた添田夫妻は、遠子のトカトントンのために結局は日常へと戻っていかざるを得ず、千愛自身もまたトカトントンによって自死への衝動を絶たれる。残酷ではあるが他方で福音であり、福音であるが他方で残酷でもある。そういう残酷な福音を告げる遠子先輩はやっぱ怖い。
シリーズ物らしいんで、次作でどうなるか。トカトントンは溜まるからね。