「サウンドトラック」古川日出男

イデオロギー闘争の歴史は、「アラビアの夜の種族」をもって終焉した。ゆえに、もはや「沈黙/アビシニアン」で見られたような、「正史/個人史」の対立構造は存在しない。あらゆるイデオロギーが、ある「歴史的偶有性」に依拠する以外には価値を失った世界で、なお成立する物語とはどのようなものだろうか。それは、自身の経験を、表象するのではなく、実現することによって紡いでいくという物語に他ならない。コトバすらすでに必要ない。ヒツジコのダンスもレニの映画も、解釈が不可能な、それでいて人の内側に直接語りかけていく「力」を持つ。だから、政治的な正当性の闘争ではなく、剥き出しのアイデンティティ同士の闘争の場と化した「東京」において、それらは絶対的に強い。そういう話。
あ、このレビューほとんど「ダイヤモンド・エイジ」の使いまわしじゃん。ていうか、「サウンドトラック」って、まんま「ダイヤモンド・エイジ」じゃん。なんでだれも指摘しないんだ?明らかにハーヴ=トウタ、ネル=ヒツジコだろうに。
それはそうと古川日出男の本って、裏表紙とか帯とかにある紹介文と本編の内容がいつもぜんぜん違うんですがどうしたものか。