「13」古川日出男

メモ程度の感想。
第一部で紡がれた物語−響一の、ローミの、ウライネの、13の−を、第二部で一度構造的に分節・解体し、再編成することで、物語内物語−それぞれの視点−パースペクティヴが「発見」される。色盲でしか見えない世界とは、その象徴だろう。「沈黙/アビシニアン」を物語の対立の話とするなら、その対立すべき物語は「13」の中で「発見」されたものである。この時点では、ヴァージョン対抗において、「ヴァージョンを対抗させるもの」への関心はまだ持たれていない。音楽は死んでいない。解釈がまだ死んでないからだ。しかし、この作品の中でもすでに「サウンドトラック」−音楽の死−へと向かう道筋はつけられている。たとえば、第二部におけるココとマーティの、「過去の実在」についての会話がそうだろう。歴史的アイデンティティの不確かさが、「サウンドトラック」で見られるような偶有性の力を引き起こすのである。というわけで、よく作りこまれた良作。