二つの国

赤と青の地域にくっきり2分されたアメリカの大統領選挙を見て、「イギリスには二つの国がある」というフレーズを思い出した。

「英国はひとつだが、中にはふたつの国が在るのだよ。すなわち、上流階級以上とそうでないもの。このふたつは言葉は通じれども別の国だ。」森薫『エマ』①184p

「二つの国」というフレーズを一般的に認知させたのは、19世紀イギリスの小説家・政治家ベンジャミン・ディズレーリである。当時のイギリスでは貧富の差が産業革命によって加速され、重大な社会問題となっていた。根っからのロマン主義保守主義者であったディズレーリは、この解決を上流階級のモラル、いわゆるノーブレス・オブリージュに求めた。しかし、産業資本主義の浸透による利害の分化は、そのモラルを維持することを許さない*1
現実にイギリスの貧富の差を是正したのは、ディズレーリのライバル、グラッドストン率いる自由党の社会政策であった。

*1:1819年Times紙はマンチェスターの労働者階級の不満を記事にしている。「……労働者たちは金持ちに対して激怒しているようだ。金持ちの関心は、危険なほどに、ただ労働者がもたらす成果物にのみに向けられており、労働者たちが望んでいるものに対しての共感は全く持っていない」