マイク・レズニック『アイヴォリー』ハヤカワ文庫

人の信念というものは膨大な事実を蓄積することでは決まらず、その事実の中で人が何を忘れ、何を覚えているかで決まるとすれば、マンダカとそのほかの人類とに本質的な差異は無い。マンダカが少し変わった信念を信じてしまっただけだ。
むしろ圧倒的大量の事実の中におかれていることであらゆる信念を相対的にしか見れないロハスのほうがはるかに孤独であろうと思う。だからロハスはマンダカを理解することができない。結局事件が終われば象牙のことは忘却してしまうのだ。
ただ、それは強みでもあると思う。
記憶の物語は誰もが持っているもので、それ自体に価値があるのではない。問題は、誰がどうやってつむぐかだ。
要するに偉いのはアイヴォリーじゃなくて胸毛のおっさんだということなんだけど。
未来史というよりは、超歴史的な記憶の物語といったほうが正しいような気がする。確かに叙事詩とはそういうものだ。