東京都表現規制問題をめぐる一連の出来事についての共同声明(転載可)


参考
「東京都青少年健全育成条例改正案に反対する緊急ネットワーク」と昼間氏らへんの対立(Togetter - amamako氏のまとめ)
mukofungoj c^iuloke
よねざわいずみ (yonezawaizumi) on Twitter




 12月15日、「東京都青少年健全育成条例改正案」が東京都議会で可決され、マンガ・アニメへの表現規制がいっそう厳しくなることになりました。これについて、わたしたちにはいくつかの言うべきことがあります。



1.

 制定の過程で石原都知事は、同性愛者について「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」という発言を行いました。石原都知事の差別的発言は今に始まったことではありません。しかし、この発言がセクシャルマイノリティへの重大なヘイトスピーチであることに変わりは無く、わたしたちは市民のひとりひとりとして、断固として抗議したいとおもいます。



2.

 表現規制の問題については、様々な議論があります。表現の自由、性差別、レイシズムなど、問題はいろいろあるでしょう。しかしひとつだけ言えることがあります。表現の問題を市場の自由に丸投げしてしまうことは、資本主義経済や様々な権力関係による規制を追認するということであり、不公正なものになりうるということです。どのような規制が望ましいかはともかく、いずれにせよ表現規制は市民の責任において、しっかり話し合って決めるものでなければなりません。
 一方で今回の都条例は性暴力や差別表現の規制ではありません。確かに賛成派はそれを意図していると主張していますが、じっさいは保守的な性規範の押し付けが意図されているにすぎず、それ自体ある種の性暴力・性差別を内包しているものです。このことは石原都知事ヘイトスピーチにも象徴的にあらわれていると言えるでしょう。わたしたちは表現規制への賛否を別にして、この改正に対して反対を表明します。



3.

 他方で、わたしたちは最近都条例反対派のなかで行われたいくつかの騒動に対しても問題視しています。
 今回、都条例に「反対」した団体・個人はさまざまですが、そのひとつに過ぎない昼間たかし山本夜羽音の縄張り意識から、特定の団体・個人への攻撃が行われました。
 そもそも「東京都青少年健全育成条例改正に反対する女性表現者の会(現:東京都青少年健全育成条例改正に反対する緊急ネットワーク)」*1昼間たかし一派とは、その目標からして異なっています。前者は女性やセクシャルマイノリティの権利を獲得する運動の一環として今回の条例に反対しています。しかし後者については、そのような意識があるとはとうてい思えません。後者は何らかの内輪意識を前提としてバッシングしているようですが、このような深刻な距離があることを考えると奇妙なことです。
 また、山本夜羽音は、今回は「創作物の」表現の自由という観点からしか発言しないと明言しており、それはつまり自分たちの「自由な表現」のコストをだれがどう負担させられることになるのか、またそこに不公正・不公平が生じるときにどう是正していくのか、といった問題意識を「今回は」考えないということになります。しかし、そうした問題意識を戦略的に考える/考えない、という選択が可能である時点で、「自由な表現」のコスト負担を比較的強いられないような、特権的な立場に依存した傲慢な態度と言わざるをえません。昼間たかしに至っては従軍慰安婦否定論の支持者です。こうした人間たちと一緒に表現の自由を訴えることは大きな問題があります。つまり方法論のちがいいぜんに最初から両者が一緒にやれるとはとうてい思えない。もし一緒にやれないのならば、異なった立場からそれぞれ運動をおこなっていく、ということになります。これは極めてあたりまえのことです。
 ところが、後者はなぜか、前からやっていたわれわれに挨拶に来るべきであると言わんばかりに、前者に対して先輩風を吹かせ、方法論についてのあげ足取りをしています。「緊急ネットワーク」には、今回の問題ではないとしても、議員へのロビー活動を多く行い、一定の成果を挙げてきたひとたちも参加しています。にもかかわらず昼間・山本が、自分たちこそが熟達したロビー活動家なのだと確信している様子は、見ていて痛々しいくらいに思えます。



4.

 さらに問題なのは、昼間らに便乗するかたちで、「緊急ネットワーク」の特定個人への攻撃・誹謗中傷をおこなっている者が複数いるということです。まず、かれらは昼間らがネットにあげている情報を検証ぬきに「事実」として引用し、これに依拠することで、緊急ネット側の個人を一方的に攻撃しています。このことについての反省は、現時点でもなされていないようです。しかも、かれらのなかには、今回の問題とは別の出来事をもちだして、みずからの一方的な事実認識と価値判断にもとづく非難をあびせた人もいます。わたしたちはこの界隈とは近い関係にいるものとして、この事態をとても問題だと思います。



5.

 さらに、今回反都条例緊急ネットワークに対して行われたバッシングは、政治表現の方法論を勝手にひとつの型にはめようとするものでもあります。ロビーイングに際してアポイントメントを取ることとか、都庁内での表現・賛同募集活動の規制は、いった実在するのでしょうか? また、あったとして、それは正当なものなのでしょうか?
 もちろんヘイトスピーチなどはどのような形をとるのであれ容認されるべきではありませんが、それはヘイトスピーチだからであって、表現形態の問題ではありません。
 直接意見の違いを表明するのではなく、そのような恣意的な「ルール」におんぶした形での対立者へのバッシングは、これからの社会運動を構想する上でも、危険な兆候であるとわたしたちは憂慮します。




 わたしたちは、昼間のような歴史修正主義者や山本のようなご都合主義者についてはしっかりと批判し、改まらないようであればかれらと敵対的な関係をもつこと、あるいはそのむねを公的に表明することを、友人たちに呼びかけます。
 わたしたちは緊急ネットに属しておらず、代弁者でもなく、個々には意見の違いもあります。また、運動の具体的現場において何がおこなわれたかを詳細に把握しているわけではありません。しかし、上記のことはインターネット上だけで、もっといえばamamako氏がまとめたtogatterを見るだけで言えることです。
 代弁としてではなく、不当なことを目撃した一個人たちの責任として、わたしたちは以上のことを訴えたいと思います。なお、代弁ではないと断っていても、バッシングを批判する者が少数にとどまればまるで代弁であるかのように見えてしまうかもしれません。そうならないためにも、あなたの、あなたなりの意見を公に表明することを呼びかけます。
(2010年12月23日)





呼びかけ人

*1:以下、「緊急ネットワーク」と略記。